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福岡地方裁判所小倉支部 昭和37年(ワ)4号 判決

原告

品川玄太郎

原告

株式会社品川工業所

右代表者代表取締役

品川玄太郎

右原告両名訴訟代理人弁護士

岡本拓

(ほか三名)

被告

ダイヤ産業株式会社

右代表者代表取締役

中塚力

被告

中塚力

右被告両名訴訟代理人弁護士

村田利雄

篠原武夫

右被告両名輔佐人弁理士

沢木誠一

門間正一

主文

一、被告ダイヤ産業株式会社は、別紙第一目録記載の物件を、製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。

二、被告ダイヤ産業株式会社は、その所有にかかる前項掲記の物件(完成品)およびその半製品(前項掲記の物件の構成要件は備えているが、いまだ製品として完成の段階に達していないもの)を廃棄せよ。

三、原告品川玄太郎の被告両名に対するその余の請求ならびに原告株式会社品川工業所の製告両名に対する請求は、いずれも棄却する。

四、訴訟費用中、原告品川玄太郎と被告ダイヤ産業株式会社との間に生じた部分はこれを四分して、その三を被告ダイヤ産業株式会社の、その余を原告品川玄太郎の各負担とし、原告両名と被告中塚力との間に生じた部分は、原告両名の負担とし、原告株式会社品川工業所と被告ダイヤ産業株式会社との間に生じた部分は、原告株式会社品川工業所の負担とする。

事実

第一  当事者の本案の申立

一、原告品川

(一)  被告両名は、別紙第一目録記載の物件を、製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。

(二)  被告両名は、その所有にかかる前項掲記の物件(完成品)およびその半製品(前項掲記の物件の構成要件は備えているが、いまだ製品として完成の段階に達していないもの)を廃棄せよ。

(三)  被告両名は、各自、朝日新聞、毎日新聞および日本経済新聞の各全国版朝刊の下段広告欄に、三日間継続して、別紙第三目録記載の文案により、二段抜きで、謝罪広告の四字、宛名および被告両名の氏名は四号活字、その他の部分は五号活字をもつて原告両名宛の謝罪広告を掲載せよ。

(四)  訴訟費用は、被告両名の負担とする。

との判決を求める。

二、原告株式会社品川工業所

原告品川の本案の申立(三)および(四)と同旨の判決を求める。

三、被告両名

原告両名の請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告両名の負担とする。

との判決を求める。

第二  当事者の事実上の主張および認否

一、請求の原因

(原告両名の実用新案権と実施権)

(一) 原告品川は、昭和三五年一〇月一三日訴外早津一男から次の実用新案権(以下本件実用新案権という。)を、譲り受け(同年一一月一〇日その旨登録)その権利者となつた。

登録番号 第四三五、三一六号

考案の名称 餠搗器

出  願 昭和二九年二日二六日

出願公告 昭和三〇年七月一八日

登  録 昭和三〇年一〇月二五日

(二) 原告株式会社品川工業所(以下原告工業所という。)は、昭和三五年一一月一〇日頃、原告品川から、本件実用新案権につき、通常実施権の設定を受けた。

(本件実用新案の権利範囲)

(三) 本件実用新案の登録請求の範囲は、別紙第二目録記載のとおりであり、これが本件実用新案の権利範囲である。

(被告ダイヤ産業株式会社の製品)

(四) 被告ダイヤ産業株式会社(以下被告会社という。)の製品の構造は、別紙第二図面記載のように、「器台1の上部に餠搗容器2を載架し、容器の底部3の中心を貫通して転軸4を設け、その上部に上下位置を異にして一側に傾斜する突縁5′、5を両側に有する回転子6を固定し、転軸4の下部容器の外部において調車7を固着した構造」の餠搗器(以下被告会社の製品という。)である。<中略>

二、被告両名の答弁および反対主張

(中略) 両者の構造上の差異は、作用効果の面においても、著しく異なる。

(イ)  本件実用新案の餠搗器においては、普通の桶を、容器として使用するため、桶の底部の隅部分に未搗米が押し付けられ、そのまま餠とならずに残留する部分があり、また、餠の製造中に、これが、桶の中央部において餠化した他の部分によつて、引き込まれ、餠の内部に未だ餠とならざる部分が混入するのであるが、被告会社の製品においては、容器として臼を用いているため、前記のような欠点は全く生ぜず、本件実用新案の餠搗器の平たい底面の桶では、あげられない大きい効果をあげている。

(ロ)  また、本件実用新案の餠搗器においては、突縁が転軸の回転により、未搗米を下方に押し付け、かつ、攪拌する単一行動を繰り返すのみであり、しかも、突縁が一側にだけ設けられているため、右の作用は不十分であるから、長時間かけないと未搗米が生成餠の中に混合残留して、むらを生じ、このむらをなくすためには必要以上(一部がすでに餠になつているのにそれ以上)餠搗を続行せざるを得ず、また、突縁が一分間五〇〇回もの速さで回転すれば、必然的に餠米をたたくことになるから、餠米の分子が破壊されるので、でき上つた餠は腰の弱い、のり状部分の多い風味のないまずいものとなる。しかも、負荷が、回転軸の片側にだけかかるため、回転機構全体が不平衡状態のまま駆動され回転機構に故障を誘発して装置全体の寿命を縮める欠点がある。

これに対し、被告会社の製品においては、攪拌は均等に良好に行なわれ、未搗米を突縁により押し上げることにより餠を搗くようにしたので、未搗米は突縁にたたかれるよりは、むしろ、自重と臼との摩操によつて餠にされるため、餠米の分子が破壊されることがないのででき上つた餠は、腰が強く、のり状でなく、風味のあるものとなり、それも短時間にできる。しかも、負荷が両側に略平等にかかるため、回転機構全体が平衡状態で駆動されるので、不平衡運動による故障は全く生じない。

また、本件実用新案の餠搗器は突縁に回転しつつ餠の取り出しを行なうのは極めて危険であり、餠を取り出すさいは、回転を止めて行なう必要があるのに対し、被告会社の製品によれば、餠は突縁を中必として上方に盛り上りながら回転するので、出来上つた餠を臼から取り出す場合、突縁を回転しつつ餠をつかんでも、突縁によつて、手が下方に巻き込まれる等の危険がなく、むしろ、突縁を回転しながら餠を取り出すようにすれば、餠の取り出しを極めて簡単に行なうことができる。<以下省略>

理由

(原告品川の実用新案権と原告工業所の通常実施権について)

一、原告品川は、昭和三五年一〇月一三日訴外早津一男から本件実用新案権を譲り受け、同年一一月一〇日、その登録手続をし、現に右実用新案権を有すること、および原告工業所は、同日ごろ、原告品川から、本件実用新案権につき、通常実施権の設定をうけたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(本件実用新案の権利範囲は、新法、旧法のいずれによつて判断すべきかについて)

二、原告品川が、譲り受けた本件実用新案権は、昭和二九年二月二六日登録出願し、昭和三〇年七月一八日出願公告、同年一〇月二五日実用新案第四三五三一六号として実用新案原簿に登録されたものであることは、当事者間に争いのないところであるから、本件実用新案権は、旧法による権利である。そして、原告両名の主張事実によると、被告両名は、原告品川の本件実用新案権および原告工業所のそれに対する通常実施権を侵害しているというのであるが、旧法は、昭和三五年四月一日新法の施行と同時に廃止されたので、同日以後において、本件実用新案権およびそれに対する通常実施権が侵害されているかどうかは、新法施行後その実用新案権が、どのような内容のものとして権利が付与されているかどうかによつてきまることになる。

ところで、旧法は、施行法第二条の規定により、昭和三五年四月一日からの新法の施行とともに、同日廃止され、旧法による実用新案権が、新法施行後どのような権利として保護を与えられるべきかは一に施行法によつて規律されるところである。

施行法第三条には、「旧法による実用新案権(制限付移転の実用新案権を除く。)であつて、新法の施行のさい現に存するものは、新法施行の日において新法による実用新案権となつたものとみなす。(以下略)」と規定してあり、旧法による実用新案は、新法施行後は新法による実用新案権となつたものとみなされているのであつて(制限付移転の実用新案権は除外され、かつ、施行法第三条ただし書による制限はあるが、これらは、本件においては関係がない。)旧法の実用新案権は新法の実用新案権と実体上まつたく同一の内容を有するものとされ、その権利範囲、妨害請求権、予防請求権等の有無は一に新法の各規定によつて、新法の実用新案権のときの判断と同じように判断すべきものとされているのである。この点について、被告両名の主張するところは、旧法による実用新案の権利範囲は新法施行後も、旧法の規定によつてきめるべきであるとの主張に立脚しているかのようであるが、このような主張は施行法第三条の規定を無視するものであつて採用しがたい。なお、被告両名は、旧法と新法とにおいて、実用新案の権利範囲が同一であればともかく、異なる場合には、当裁判所が採用した前記の解釈によると、新法の施行日までは、一定の考案が実用新案権にてい触しないものとして適法に実施できたのに、新法の施行と同時に権利侵害となり、その実施が違法なものとなる場合があることを是認する結果になるが、これは無効審判の請求登録前の実施による通常実施権(新法第二〇条第一項)を承認する新法の法意にそう解釈とはいいえないと、主張するが、新法は、第二六条において、かかる場合には、新法の施行日前の実施による通常実施権の有無の問題として解決することにしているから、これをもつて、施行法第三条の解釈を左右しえないことはもちろんである。

(新法における権利侵害の判断基準について)

三、新法の実用新案権とは、「物品の形状、構造または組合せに係るもの」で「産業上利用することができる考案」について、実用新案登録原簿に登録した者が受ける権判であつて(新法第三条第一項参照)、新法は、「物品の形状、構造または組合せに係る考案の保護および利用を図ることにより、その考案を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」(同法第一条)立場に立つから、新法は、考案の効果たる「技術的思想の創作」の保護に重点を置いているものといえる。とくに新法は、第三条第二項において「きわめて容易に考案することができ」るときには登録を受けることができないとしたことは、「きわめて容易に」という条件のもとにおいてではあるが、実用新案にいわゆる「進歩性」の要件を付加したものであるから、新法の実用新案の権利範囲の判定に当つては、「考案」の効果そのものを「物品の形状、構造または組合せ」自体より重視してよいと考えられる。

したがつて、新法の実用新案権は「物品の形状、構造または組合せ」にかかるものとしてこれらに具現化されていることを要するが、これらに具現化された「考案」の効果の保護に重点が置かれている以上、その権利範囲の判定に当つては、ただ単に「物品の形状、構造または組合せ」を表面的に物理的な外形的なものとして比較検討するにとどまらず、考案の目的およびそれに伴う実用新案性、経済的技術的価値いわば作用効果をしんしやくし、その実用新案によつて合理的な人間ならば当然予想することができるような範囲内にあるかどうかによつて物品の形状、構造または組合せの同一性の有無をきめ、もつて実用新案の権利範囲を判定すべきである。

(本件実用新案および被告会社の製品の特徴について)

四、そこで、これを本件についてみるに、原告両名主張の請求原因の事実および本件実用新案の登録請求の範囲が、別紙第一図面に示すように器台2の上部に設くる桶1の底部中心を貫通して転軸3を設けその上端に一側に傾斜する突縁6を設けた回転子4を固着し、下部に調車5を設けた餠搗器の構造にあること、被告会社が、被告会社の製品を製造販売していること、被告会社の製品の構造は別紙第二図面記載のように器台の上部に餠搗容器2を載架し、容器の底部3の中心を貫通して転軸4を設け、その上部に上下位置を異にして一側に傾斜する突縁5、5を両側に有する回転子を固定し、転軸4の下部容器の外部において調車7を固着したものであることは当事者間に争いがなく、これと(証拠―省略)を総合すると、本件実用新案の餠搗器と被告会社の製品との構造上の差異は、回転子に固着した突縁(羽根)が、一側に一個あるのみか、または、上下位置を異にして一個を傾斜する突縁(羽根)各一個が両側にあるか、および、容器の形状が桶状のものであるか、または強弧なかたをした臼状のものであるかどうかである。単的にいえば本件実用新案の餠搗器は、一枚羽根の桶に対し、被告会社の製品は、二枚羽根の臼であるということができる。

(本件実用新案の要部等について)

五、(証拠―省略)と弁論の全趣旨によると、本件実用新案の餠搗器ないし被告会社の製品以前には、餠搗用機械としては、人力キネの使用による餠搗を単に機械化したにすぎない機械と、ミンチ式と称し挽肉を作るのと同じような方法により狭い円筒形の容器の中にラセン状の棒を通し、棒を回転して餠米をねじりながら送り出すことによつて餠にする機械のほかになかつたことが認められる。

また、(証拠―省略)を総合すると、本件実用新案の餠搗器は、次のように突縁(羽根)を設けた回転子と容器との相対運動により餠を搗くことができるようにしたものであることが、認められる。すなわち、

別紙第一図面の回転子4が、転軸3の回転(一分間約五〇〇回回転)に伴つて、突縁(羽根)6により、その近くにあるむした糯米をたたく。たたかれた糯米は遠心力のために、かたまりから離れて、周辺に飛びだす。飛びだした糯米は、容器によつてさえぎられ、防着力のために突縁(羽根)の作用を受け易い位置にひきもどされて、たたかれながら攪拌をうける。このようなことを繰り返すことによつて、防着力というよりは粒性が現われてきて、糯米から餠に変るのである。そのさい、突縁(羽根)を、その効率を向上させるための転軸方向に対し、やや傾斜した翼状にしているのである。

すると、本件実用新案の新規性は、突縁(羽根)の回転により餠米に打撃を与え、これをたたきながら攪拌することによつて、餠を搗くということにあるのであり、したがつて、本件実用新案の考案の要部は、転軸の上端に一側に傾斜した突縁(羽根)を固着した回転子を有する構造部分にあるといえるのであつて、このことは本件実用新案公報において、本件実用新案の性質、作用および効果として「転軸3(註、別紙第一図面参照)を調車によりて一分間五〇〇回転せしめつつ、蒸した糯米を投入するときは糯米は五分間前後において搗餠状10となる」から「従来の餠搗きと全然異つた方法によつて速かに餠搗きしうる」ものとされ(このことは前記甲第二号証の一によつて認められる。)、かつ、登録請求の範囲として別紙第一図面のとおり「桶1の底部中心を貫通して転軸を設け、其の上端に一側に傾斜する突縁6を設けた回転子4を固着し、その下部に調車を設けた餠搗器の構造」とされ(このことは当事者に争いがない。)ているとおり、回転子およびその上端に固着した突縁(羽根)の構造および作用効果の記載が詳細に記載されていることからも十分首肯されるところであろう。

(被告会社の製品と本件実用新案との比較について)

六、ところで、本件実用新案は、突縁(羽根)が回転してはじめてその作用効果をあらわすのであるから、このように運動をしている状態の突縁(羽根)を考えると突縁(羽根)の数が一個であるか、二個であるかは餠米をたたきながら攪拌するということに本質的に差異があるとは考えられない。のみならず、(証拠―省略)によると、このような突縁(羽根)の数を適宜一枚から二枚にむやしたりすることは、何人も容易に想像しうるところであるから一枚羽根を二枚羽根にすることを以つて本件実用新案と異なる考案ということはできず、また、このことは突縁(羽根)の固着箇所、固着の方向等について被告両名主張のような事実があつたとしてもいいうるところであつて、それ故にその作用効果が異なることはないことが認められる。(中略)

なお、(証拠―省略)によると軸ばね回転によると餠搗兼用精米機の実用新案に関し「而して場合によつては、煉り具の羽根(註、本件実用新案の突縁に相当する。)は一枚のもの又は三枚のものに取り替え得るので、実に便利なものである。」との説明が、昭和三一年六月一四日に特許庁の命令にもとづき訂正削除されたことが、認められるけれども、これは特許庁において実用新案のもとの型を特定するためにとつた措置と考えられるし、かりに旧法の時に特許庁が、一枚羽根と二枚羽根または三枚羽根とは同一性がないと考えて、右のような命令を出したとしても、その型の類似性を否定することはできないのであり、ましてや、前述の新法の立場においては右事実を以つて当裁判所の前示認定を左右することはできない。

次に、本件実用新案の餠搗器の容器である桶と、被告会社の製品の容器である臼との差異についてであるが、前記甲第二号証の一によると本件実用新案公報には登録請求の範囲として、容器については、「図面(註、別紙第一図面をさす。)に示すように器台2の上部に設くる桶1の底部中心を貫通して転軸3を設け」と簡単に記載されている反面、その性質、作用および効果の要領において、「本案は器台2の上部に設くる桶1の底部中心を貫通して転軸3を設け……(中略)……桶の内部上方には中央部を膨脹した蓋9を掛着すべき突起7、8を左右に設けたものである。」とあり、さらに「速かに搗かんとするときは上部より蓋9をなして圧迫すれば速かに搗き得るものである。」と記載されていることが認められる。

以上のように、本件実用新案公報によれば、容器である桶のことについては、実用新案の性質、作用および効果の要領においては、比較的くわしく説明しているのに反し、登録請求の範囲においては、最小限度にしか記載されていないのであり、しかも、前記(証拠―省略)によると、臼と桶とによつて特別な作用効果の差異が生じないことが認められるので、このことからみても、この「桶」という部分には実用新案の考案の要部がなく、単に餠搗器の餠を受容し、かつ、これが飛散するのを防ぐ容器を示したにすぎないものと判断される。

この点について、被告両名は、容器の桶についてまでも実用新案がおよぶ趣旨の主張をし、前記(書証―省略)のうちには、それにそう趣旨のものがあるが、失当である。また右各証拠および前記(証拠―省略)のうちには、被告会社の製品の臼の特殊性を強調し、作用効果が著しく異なることを述べているが、これらもにわかに信じがたく、他にそのような著しく作用効果を異にすることを認めるに足りる証拠はない。

以上のおり、原告品川の有する本件実用新案の餠搗器と被告会社の製造販売する被告会社の製品とは、回転子の突縁部分および容器の外形的形状においては異なるといえるが、その外形的形状は、きわめてまぎらわしく、かつ、その作用効果において差異が認められず、被告会社の製品は、本件実用新案の餠搗器と対比して、特になんらの新規性もないから、両者は、構造において、同一であると認めるのが相当である。

してみると、被告会社の製品は、その基本的構造ならびに考案の内容たる作用効果を共通にするものであり、全体として本件実用新案権にてい触するものといわざるを得ない。

(被告会社の先使用による実施権について)

七、被告中塚力が、被告会社の代表取締役であること、被告会社が昭和三四年五月ごろ、設立されたことは、当事者間に争いがない。

ところで、被告両名は、被告中塚が昭和二八年ごろから原告両名が請求原因(四)において主張する別紙第二図面記載の様式と構造の類似の構造を有するダイヤ式と称する餠搗器を製造販売していた旨主張し、(書証―省略)のうちには、右の趣旨にそう部分があるか、これらも後記の各証拠に照らすと、にわかに信用しがたく、かえつて、(書証―省略)を総合すると、被告中塚は、もと水あめの製造販売の業務に専念していたが、昭和三三年春ごろ中道利武方にて、本件実用新案にもとづく富士見機械工株式会社製作にかかる餠搗器をみてから、ダイヤ式と称する餠搗器の製造を、はじめたことが窺われるのであつて、いわゆる先使用権の成立する余地がないから被告両名の抗弁は、その他の点についての判断を進めるまでもなく失当といわなければならない。

(差止請求について)

八、被告会社が、その設立の昭和三四年五月ごろから現在に至るまで、第二図面記載の餠搗器を製造販売していることは、当事者間に争いがなく、右製造販売の事実から、被告会社が、右製品の完成品および半製品を所持所有していることは、推認するに難くないところ、右製品が本件実用新案の技術的範囲に属することは前判示のとおりであるから、本件実用新案にもとづき、被告会社に対し、前記物件につき、差止および廃棄を求める原告品川の請求は、理由があるとすべきである。

しかしながら、被告中塚については、被告中塚が、右物件につき、個人として、現在前記のような行為をしていること。もしくは、将来右行為をする虞のあること、または、右物件を所有していることに関し、なんらの主張、立証がないから、原告品川の差止請求のうち、被告中塚に対する部分は、その前提事実を欠き、失当といわなければならない。

(謝罪広告の請求について)

九、被告中塚が、被告会社の代表者としての職務の執行にあたり、被告会社の製品を製造販売したことは、当事者間に争いがなく、右行為が、本件実用新案権を侵害したものであることは前説示のとおりであるから、被告会社は右侵害行為について、過失があつたものと推定され、この推定を覆えすに足りる証拠はない。しかも、被告両名が、原告両名主張の「カタログ」や業界誌に、その主張のような広告をしたことは、被告両名の自認するところであり(書証―省略)によれば、被告会社がその製品につき、特許権を有しているように広告していることが認められるが、これらの事実に、被告会社の販売した被告会社の製品が本件実用新案権の実施品に比し、とくに粗悪であるということについてなんら主張、立証のないことを合わせ考えれば、被告会社の前記行為により、本件実用新案の権利者としての原告品川の、また、その通常実施権者としての原告工業所の各業務上の信用が、ある程度影響をうけたとしても、あえて原告両名の求めるような一般新聞上における全国的な謝罪広告の掲載を命ずるまでもなく、被告会社に対し前記のとおりその製品の製造、譲渡等の差止を求め、さらには、侵害行為による損害賠償を求めることにより、その業務上の信用に対する影響を払拭しうるものとみるのが相当であり、他に右謝罪広告を掲載するのでなければ、その業務上の信用を回復し難い事情にあることを認めるに足りる証拠はない。したがつて被告両名に対し全国主要日刊新聞紙に謝罪広告の掲載を求める原告両名の請求は適当とはいい難いので、右請求もまた、理由がないものといわざるをえない。

(むすび)

一〇、以上説示のとおりであるから、原告品川の請求は主文一、二項掲記の限度で、これを認容するが、同原告のその余の請求および原告工業所の請求は、いずれも、失当として、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文第九三条第一項本文を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官山本茂 裁判官富山修 中野辰二)

第一目録

器台の上部に臼型容器を載架し、容器の底部の中心を貫通して転軸を設け、その上部に上下位置を異にして一側に傾斜する突縁二箇以上を有する回転子を固定し、転軸の下部容器の外部において調車を固着した餠搗器

第二目録

図面(註、別紙第一図面をさす。)に示すように、器台2の上部に設くる桶1の底部中心を貫通して転軸3を設け、その上端に一側に傾斜する突縁6を設けた回転子4を固着し、下部に調車5を設けた餠搗器の構造

第三目録

謝罪広告(省略)

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